27年度 モデル2 見守り支援
社会福祉法人 兵庫県社会福祉事業団
総合リハビリテーションセンター
福祉のまちづくり研究所
導入機器の概要
- 機器名:ネオスケア(Neos+Care)
- 機器メーカー:ノーリツプレシジョン株式会社
3次元電子マットを用いた予測型見守りシステム
3次元電子マットを用いた予測型見守りシステム「Neos+Care」は、従来の見守り機器とは異なり、ロボットテクノロジーを用いた見守り機能と人による見守りを支援するロボット介護機器である。特徴としては、(1)昼夜を問わず暗室でも利用者の動きを検出することができる赤外線センサーを使用、(2)利用者の様々な動作パターンを認識できるセンシング機能、(3)介護現場の見える化(プライバシー保護対応)を実現するリアルタイム映像配信機能、(4)介護プラン作成に役立つ検知履歴・映像録画機能を有している。
機器導入経過の概要
機器導入前の課題
見守り業務に対し強い負担感
利用者の睡眠への影響・転倒に対する不安
■ 見守り支援業務に対する課題の整理
a. 利用者の状態に合わせたケアの提供
見守り支援が必要な介護度の高い入所者が増えており、現状の職員数では十分な見守り支援が行えていない現状がある。利用者のペースに合わせたケアを提供するため介護プログラムを組み立てているが、センサーマット等の機器から通知があると、すぐに駆けつけなければならず、利用者のペースに合わせたケアの提供が困難である。
b. 介護職員の見守り支援業務に対する負担感と課題
<見守り支援に対する業務負担感について>
とても感じる | やや感じる | どちらとも言えない | あまり感じない | 感じない |
---|---|---|---|---|
30% | 31% | 25% | 11% | 3% |
介護職員への調査から、見守り業務に対して強い負担感を感じており、精神的なストレスが強いことが分かった。特に夜間帯は職員数が少ないうえ、職員一人あたりの担当利用者数も多く、責任が大きくなっている。マンパワーが少ない中での見守り業務は負担感が強く、効率的な業務体制への改善が必要である。
<見守り支援に対する業務負担感について>
見守り支援業務の課題だと感じる点については、「センサーマットなどから同時に複数の通知があると優先順位がつかない」、「通知後に訪室するが、すでに転倒していることがある」、「利用者の寝返りなどの動作でも通知があり、訪室すると利用者の睡眠を妨げてしまうことがある」などの意見が聞かれた。利用者の睡眠への影響や転倒に対する不安を抱えながら業務をしていることが明らかとなり、転倒・転落に繋がる行動を早期に把握することが重要である。
c. 利用者のアセスメントと機器との適合
センサーマット等を使用する利用者が増えている一方、利用者と機器との適合をアセスメントする機会について調査したところ、「アセスメントの機会がある」と回答した割合は「13%」であった。機器の特性として、長期間使用するものではないため、アセスメントの機会を設定し、利用者の行動の背景や特性を介護職員間で共有することが重要であると考える。また、アセスメントの場では、使用する目的や期間、適合の判断についても意識共有を行う必要がある。
機器導入後の経過
利用者に機器が必要かアセスメント
設定や運用ルールの見直しを図る
① 課題解決に向けた目標設定
a. 利用者の状態に合わせたケアの提供
利用者の状態や動作方法に合わせたケアを提供するため、利用者の転倒リスクが高い動作の把握や通知のタイミングの設定を職員間で情報共有できるアセスメントシートを作成した。利用者の行動特性やペースに合わせた適切な介入のタイミングを検討し、事故の防止や利用者の安心・安全を確保することを共通認識とした。
b. 介護職員の見守り支援業務の負担感の改善
利用者の特性に合わせた通知設定を行い、シルエット画像で状態を確認することにより、緊急に対応が必要か判断を行う。また、体調不良時や把握が困難な夜間帯の行動パターンを知ることで、根拠をもったケアの方法を検討し、転倒に対する不安の軽減・見守り業務の負担感の軽減を図る。
c. 利用者のアセスメントと機器との適合
利用者のアセスメントから見守り支援機器の運用ルールを明確にし、職員間で情報を共有するため、運用シートを作成した。定期的にアセスメントの機会を持つことで、利用者に機器が必要かアセスメントを行い、設定や運用ルールの見直しを図る。
② 利用者のアセスメントと、導入機器の適合、有効性に関する評価項目
評価項目 | 計測手法・指標 |
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対象者の状態像 |
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介護職員の業務負担感とストレス |
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施設情報 |
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利用環境の条件 |
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機器の利用効果 |
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③ 実施スケジュール
機器活用のためのフォローアップ
ワークショップを開催し、意見交換
機器活用に必要な要素と課題を施設間で共有
■ 見守り支援機器の活用に向けたワークショップ
見守り支援機器の導入後、活用に向けて必要な要素と現在の課題などを施設間で共有し、新たな活用方法を構築するため、ワークショップを開催し、意見交換を行った。また、今後、継続して活用するために必要な要素についても検討した。
日時 | 2019年2月23日 |
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場所 | 福祉のまちづくり研究所 2階 評価室 |
参加者 | 特別養護老人ホーム あわじ荘 2名 特別養護老人ホームKOBE須磨きらくえん 1名 ノーリツプレシジョン株式会社 1名 福祉のまちづくり研究所 4名 |
※特別養護老人ホーム 万寿の家は別日に開催
実証評価の結果
実証評価における活用事例の紹介
① 利用者の状態に合わせたケアの提供が出来た事例
対象者情報 | 認知症、要介護度2 | 通知設定:離床 | 機器の使用時間:24時間 |
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対象者の特徴 | 社交的な性格で、人と話をすることが好きだが、話し相手がいないと居室でテレビを見て過ごされていることが多い。基本的動作や食事・更衣などは自立している。排泄動作は見守りで可能だが、後始末に介助が必要。下肢筋力の低下から、すり足歩行となっており、手すり等を持ちながら移動するように伝えるが、見守りや声掛けがないと転倒のリスクが高い。日中は自由に居室から談話室などへ移動されているが、移動距離が長くなると前傾姿勢となり、歩行スピードが速くなってしまい、転倒のリスクが高まる。 | ||
運用ルール | 施設内はご自身の意志で生活を継続していただく。離床から歩行へ移行する際に転倒リスクが高いため、タブレット等で動作を確認し、必要に応じて対応する。日差により、歩行状態が不安定な場合は常に対応する。 | ||
導入目的 | マットセンサー使用時は、端座位になると常に職員が訪室していたため、落ち着かず、感情が高ぶることもあった。職員が傍で付き添うことを好まないため、タブレット等で姿勢や動作方法を確認し、必要な時のみ対応することを目的とする。 | ||
適合判断 | 日中、自由に移動している方であり、居室に戻られた際も通知があるため、行動パターンの把握が出来た。夜間帯も居室内のトイレに行かれることが分かるため、利用者のタイミングを見て介入でき、有用であった。 |
② 介護職員の見守り支援業務の負担感の改善が認められた事例
対象者情報 | 認知症、要介護度4 | 通知設定:起き上がり | 機器の使用時間:夜間 |
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対象者の特徴 | お酒や買い物に行くことが好きで、外出の希望が聞かれる。レクリエーションなどへ誘っても参加しないことがあるが、ご自身の好きな活動には積極的に参加されている。寝返りなどは自立されているが、両膝とも伸展制限があり、立ち上がりや立位が必要な動作は全て介助が必要である。自宅へ帰りたい思いが強く、1人で車いすへ移乗しようとし、転倒することが複数回あった。 | ||
運用ルール | 不眠傾向があり、夜間帯に動きだされることがあるが、長座位になって休んでいることや布団を直していることもあり、起き上がりから端座位までの様子を確認し、対応の必要性を判断する。 | ||
導入目的 | 自宅へ帰りたいという思いから、突然車いすへ移乗されることが多くあり、センサーマット等では対応に遅れが生じ、転倒リスクが高かった。早期に動作を把握することで、対応の必要性を判断し、すぐに対応できるよう準備を行う。 | ||
適合判断 | センサーマット等から通知があるたびに職員が駆けつけていたため、利用者・職員ともに負担感を感じていたが、利用者の動作を早期から把握することで、対応の必要性の判断や起き上がるまでの動作の確認に繋がっている。通知設定を「起き上がり」にしたことで、早期に動作の確認ができ、心にゆとりを持って対応することが出来ている。起き上がりから端座位までの動き方を知ることが出来たため、訪室回数が少なくなり、利用者にとっても負担が減ったと思われる。 |
③ 介護職員の見守り業務に対する負担感の変化
<見守り支援に対する業務負担感について>
とても感じる | やや感じる | どちらとも言えない | あまり感じない | 感じない | |
導入前 | 30% | 31% | 25% | 11% | 3% |
導入後 | 4% | 21% | 45% | 24% | 6% |
④ 介護職員の意識の変化と見守り支援機器を活用するために必要な要素について
a. 見守り支援機器導入後の利用者の変化
センサーマットなどを使用した場合、センサーが反応する度に介護職員が訪室していた。利用者の「人に頼らず、自分で動きたい」という思いをかなえることが出来ず、常に介助下での生活であった。しかし、見守り支援機器の導入後は、タブレットで動作や姿勢を確認し、転倒リスクが高いと判断した場合のみ、ケアを提供する体制が出来たため、過度な介入がなくなり、自立を支援しながら安心した生活を送ることができている。
b. 見守り支援機器導入後の介護職員の変化
見守り業務に対する介護職員の負担感は大きく、常に利用者の転倒に対して不安を抱えながら業務を行っていた。また、夜間帯に複数のセンサーマット等から通知があった際は、夜間職員のみでは全ての対応が困難であり、ストレスを強く感じていた。見守り支援機器の導入後、利用者の動作を早期に把握し、対応する必要性について判断することで、過剰な訪室回数を減らし、他の業務にも余裕をもって取り組むことが出来ている。また、複数のセンサーから通知があった際も、シルエット画像から緊急度を判断し、対応の優先順位を立てることができるため、業務の効率化・介護職員の安心に繋がっている。
機器導入の当初、「見守り支援業務の負担が軽減した」という意見が多かったが、使い慣れると、機器を見守りの道具としてのみ使うのではなく、利用者の生活の把握につなげる取組や、「見守り」に対する考え方の変化などが現れ、アセスメントの一環としても機器を活用している。
○ 見守り支援機器導入のメリットについて
c. 機器導入のプロセスの変化
見守り支援機器導入前は、機器と利用者の特性についてのアセスメントが十分に行えておらず、施設備品の中から機器を選択していた。本機器の導入後、特性を理解し活用することで、利用者のアセスメントや適合について管理監督職と介護職員がチームで検討するようになり、機器を使う事への意識共有や職員間での情報共有が進んでいる。
今後の課題と展望
より分かりやすい仕様書・取扱説明書で
現場に導入するための手順を明確に
今回、介護ロボットの見守り支援機器(施設型)を3つの特別養護ホームへ導入した。福祉用具・介護ロボットを導入する上で、施設の現状と課題の分析や利用者のアセスメントは非常に重要であるため、利用者のアセスメントシートを作成した。見守り支援機器と利用者の適合アセスメントや運用ルールの明確化により、機器の使用に関する共通理解を促し、活用に向けた取り組みを行えたと感じている。
今後、さらなる活用を進めていくためには、以下のような課題が確認できた。
(1) 見守り支援機器の設置の簡便化
今回、対象とした見守り支援機器(ネオスケア)はカメラの取り外しは簡便であるが、有線ケーブルの配線工事を済ませている居室に設置する必要がある。しかし、今回の事業の中では全ての居室への配線工事は行えず、利用者の変更が出来なかった。また、付属のタブレットにてカメラからのシルエット画像を確認するためには、職員が業務を行うユニット空間の全ての場所にネットワーク環境を整備する必要があり、施設の広さや階層によっては、大きな工事が必要である。また、防火扉など電波を通しにくい場所では電波状況が不良となるため、これから導入する施設では工事前の調査が重要である。
(2) フォローアップ体制の充実
介護現場の全ての職員へ機器の使い方を伝達するには研修日程を多く設定し、使い方に慣れていただく必要がある。しかし、夜間専門職員の勤務時間や介護現場の業務の関係により研修を開催しても参加できる職員が少なかった。基本的な使い方については、分かりやすいマニュアルを配布する等、メーカーと共にしっかりとフォローできる体制作りが重要であった。
(3) プライバシーへの配慮とアセスメントツールとしての活用
今回の機器は、タブレット等で利用者の状態を確認出来る特性がある。画像は、シルエットであるが利用者のプライベートな空間を見ることができてしまう機器であり、「見守り」のみを目的にするのではなく、利用者の生活の把握を行うことで、支援業務に活かしていく視点が重要である。また、利用者・ご家族への説明と同意を丁寧に行うことで、利用者・家族と現場職員が共通の認識のもと、機器を使用する必要がある。
今後は、機器の特性や仕様、使い方について、より分かりやすい仕様書・取扱説明書などを作成し、現場に導入するための手順を明確にしていきたいと感じている。