介護ロボットを活用した介護技術開発モデル事業支援業務報告

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27年度 モデル4 見守り支援

社会福祉法人名古屋市総合リハビリテーション事業団
なごや福祉用具プラザ 名古屋市総合リハビリテーションセンター

導入機器の概要

  • 機器名:シルエット見守りセンサ
  • 機器メーカー:キング通信工業株式会社

あらかじめ設定した見守りエリア内で利用者の動きに応じ離床等を検知・通知

センサ本体 見守りモニタ画面
センサ本体 見守りモニタ画面

無線(有線)LAN環境を構築し、利用者の部屋にセンサを設置することで、あらかじめ設定した見守りエリア内での利用者の動きに応じて、はみ出し・起き上がり・離床等を検知して通知する。

検知された情報はスマートフォン、タブレット等の見守りモニタ用端末で受信する。見守りモニタ用端末からはシルエット画像が確認できるほか、検知前後のシルエット動画履歴を後から確認することも可能。また赤外線カメラなので暗い中でも見え、センサ固定用ブラケットによりセンサの移動も簡単に可能。

機器導入経過の概要

機器導入前の課題

新規利用者の安全確保、夜勤体制時のマンパワー確保など、課題抽出と分析

昨年度の介護ロボット普及モデル事業で実施したシルエット見守りセンサの試用貸出、ワークショップにて抽出した課題と分析結果は下記の通り。

a)リスクアセスメント

  • ベッド上からの転倒・転落リスクがある

b)新規利用者の安全確保

  • ショートステイ初回利用者の事故リスクが高い

c)夜勤体制時のマンパワー確保

  • 既存のセンサでは就寝時の状況確認が不十分である
  • 既存のセンサでは誤報でもセンサ発報時に必ず訪室確認・警報解除が必要となる
  • 既存のセンサではセンサを回避され失報となる可能性がある

d)その他

  • 既存のセンサでは対応が出来ない事象がある(ベッド上で立ち上がるなど)
  • 既存のセンサでは発報時のリスクが分からない(訪室する原因が特定できない)
  • 看取り介護の質の向上・省力化が期待できる
  • カメラを利用した見守り支援機器に利用者の機器使用の理解が十分得られていない

【対象者の理解、機器利用環境、既存機器の利用状況についての評価】

e)利用対象者の適用範囲に関すること

f)利用環境条件に関すること

g)機器の利用効果に関すること

h)機器の使い勝手に関すること

i)介護現場での利用の継続性に関すること

機器導入後の経過

課題の各々に対応して具体的な防止策・業務体制の構築

a)リスクアセスメント

  • 対象者の居室ベッド上を見守るように見守り支援機器を設置し、転倒・転落につながる行動を事前に通知することにより、事故防止を図る

b)新規利用者の安全確保

  • ショートステイ初回利用者等、生活実態の把握が難しい対象者、家族から十分なヒアリングが出来ない対象者に対して、リスクアセスメントに見守り機器を用いる

c)夜勤体制時のマンパワー確保

  • スタッフルームにおいて、情報の一括管理をし、迅速な対応と効率的な業務体制を実現する

d)その他

  • 空間認識(非接触型)のため失報率は低く、シルエット画像やログにより利用者の体動の確認・行動分析が可能となる
  • スタッフルームからシルエット画像を利用して見守ることで、看取り介護実施体制の構築、看取り介護の検証に応用する

機器活用のためのフォローアップ

職員向けの導入講習と、導入施設・メーカー・仲介者でワークショップ

機器の導入前には施設の責任者・担当者向けに機器の説明会をまず行ったうえで、現場で使用する職員向けの導入講習を行った。導入施設が効果的に機器を活用するために、導入講習、導入施設・メーカー・仲介者でワークショップを2回(導入2カ月目・3カ月目)行った。

■導入講習(導入前2~3日:30分から90分程度)

導入講習は施設ごとの体制や事業所の職員全員に周知されるよう施設の要望に応じて柔軟に計画し行うよう配慮して、メーカー協力のもと行った。また導入開始時は夜間就寝時間帯を限定して使用を開始した。

対象者選定は利用者の転倒リスクがある、前施設の情報、家族の要望などを元に行われた。

実証評価開始後は検知時の状況や対応を中心に記録することとした。

■ワークショップ

導入1カ月目、3カ月目には仲介者(受託機関)、介護施設、メーカー、その他関連機関等によるワークショップにより、課題解決のための機器の活用方法を整理し、導入施設の活用状況を確認した。

狙い/成果:見守り支援機器の導入事例を基に、施設全体の介護業務の中での効果的な介護ロボットを活用した介護技術開発を支援する。

1カ月目のワークショップの概要

  • 導入状況確認(利用者居室の見学、機器・使用状況の説明)
  • 個別事例のICFを用いた整理・情報共有、活用例の検討
  • 導入施設・仲介者・メーカーの役割・進捗の確認

3カ月目のワークショップの概要

  • 機器の特徴と活用例の整理・情報共有、確認、振り返り・意見交換
  • 一定期間使用した結果、介護業務上の課題についての状況確認

<なごやかハウス野跡>

  • 機器の理解においては、「担当者に聞く」「取扱説明書を読む」「機器を使って試す」「職員同士で聞きあう」という状況で、フォローアップの必要性は特になかった。

<名古屋市総合リハビリテーションセンター附属病院(以下、リハビリセンター)>

  • 現場職員の操作習熟度の把握ができていないという現場担当者からの意見でフォローアップ研修を提案したが、全職員を集める時間・必要性がないという見解から、見送る事となった。
  • 機器の使用・操作において消極的な職員は一定の数いる。実際に使っているところを見せ、説明しているが、タブレット等の操作に慣れていないことも要因の一つと捉えており、関心の高い職員の理解度を高め、周りをフォローできるように支援する必要がある。
導入講習の様子 ワークショップ(導入1カ月目)の様子
写真1 導入講習の様子
職員と導入講習にて機器の操作を確認する
写真2 ワークショップ(導入1カ月目)の様子
個別事例をICFで整理・情報共有、活用例の検討
ワークショップ導入3カ月目の様子
写真3 ワークショップ導入3カ月目の様子
業務内での効果的な機器の操作についての検討

機器と施設・介護方法の適合

検知音が利用者の睡眠を妨げないようバイブレーション機能付き端末を用意

<なごやかハウス野跡>

機器導入のために新しく無線LAN環境を構築した。実証期間中に利用者の居室変更があり、また当初の対象利用者以外の方での使用を検討したため、全居室にブラケットを追加した。

見守りモニタ用端末の検知お知らせ音を止める操作が見守りモニタ専用アプリに複数あり、導入講習では対応方法の統一を徹底しなかったため、職員によって異なる操作を行っていた。メーカーには混乱を防ぐため、今後はカスタマイズして必要な操作のみ表示させることができないか提案し、改良に向け検討中である。また、スマートフォン端末の見守りモニタ専用アプリで表示内容が不足しており、シルエット画像閲覧中に他の居室の発報状況がわからないなどの意見があった。

<リハビリセンター>

機器導入にあたり既設の無線LAN環境を活用し、セキュリティ確保のため仮想LANを同時に構築した。しかし接続状態が安定せず、原因追究と改善に時間を要した。

実証期間中の夜間帯において、巡回中に見守りモニタ用端末の検知お知らせ音が利用者の睡眠の妨げになる可能性があり、携帯に適さないとの指摘があり、バイブレーション機能付きのスマートフォン端末を用意した。また入退院により対象とする利用者が変わったためブラケットの追加を行った。

実証評価の結果

機器利用に消極的な職員も一定数存在
操作性を向上する工夫も必要

【方法】

実証評価にあたり、下記の項目についてアンケート、ヒアリング、ワークショップおよびセンサ発報内容の記録を行った。

(1)利用者情報(シルエット見守りセンサ導入前後)

年齢、性別、疾患、既往歴、転倒・転落歴、居室環境、ケアプラン、認知機能等

(2)センサ発報内容(シルエット見守りセンサ導入前、導入後1週目、2カ月目もしくは退院前について、各3日間の夜間帯)

記録日、部屋番号、対象者、発報時間、発報内容、対象者の状況、対応内容、対応者

表1 センサ通知記録シート
表1 センサ通知記録シート

(3)介護者アンケート(シルエット見守りセンサ導入前、導入1週目、4~8週目、センサ記録終了後)

記入日、年齢、性別、経験年数、勤務形態、スマートフォンの使用経験、使用中の既存の見守り支援機器、コメント、(以下主観評価を0~10の段階で回答)機器の特徴の理解度、操作方法の理解度、操作性の満足度、誤報・失報量、訪室回数、介護負担感、業務改善度、継続利用の希望、サポート満足度

(4)利用者(家族)アンケート(随時)

見守り支援機器の知識、機器使用歴、カメラ付き見守り支援機器の知識、機器使用の希望、介護(被介護)負担感等

(5)ヒアリング(随時)

機器および対象者の状況等

(6)ワークショップ(シルエット見守りセンサ導入1か月目、3か月目)

【結果】

a)リスクアセスメントについて

センサ発報内容、ベッド周囲での転倒・転落報告数を調査したが、ネットワークの不具合、機器の設定・使用方法のミス、記録シートの記載ミス等で比較が難しく、周知徹底が必要であった。実証評価中に対象者には転倒・転落事後はなかった。

b)ショートステイ利用者等の新規利用者のリスクについて

今回ショートステイ利用者は対象でなかったが、発報履歴等のシルエット画像から、利用者の行動やその理由、移乗時の姿勢などがわかるため、リスク評価に有効であったとの意見があった。

c)夜勤体制時のマンパワー確保について

訪室回数とシルエット見守りセンサの画面確認回数について、導入前後と8週目で比較したところ、導入前と8週目、導入後と8週目の間に統計的有意差が認められた(図1)。

画面確認回数には有意差は認められなかった。

図1 訪室回数の変化
図1 訪室回数の変化

d)その他

発報時の状況を画像で確認でき、行動判断、対応順を決められるため、未然にリスクを低減できる。行動パターンに基づく介護方法が検討可能とのコメントを得た。

利用者・家族は見守り支援機器の導入・活用に好意的で、利用を拒否された例はなかった。

e)利用対象者の適用範囲について

既存のセンサも含めた見守り支援機器の適用範囲は、前施設の情報、転倒歴、利用者の行動、家族の要望等を元に職員の経験から決定していた。適用範囲はマニュアル化されておらず、チェックシートがあってもよいと思われる。

f)機器の利用環境条件について

既設ネットワークを使用したリハビリセンターでは当初無線LANの通信状態が悪く、機器のフリーズや通信速度が遅い等の問題が頻発した。ネットワークとの接続実績、設定の開示が導入には必須であろう。見守りモニタ用端末の設置場所や充電用コンセントの確保、居室内のセンサ用電源の確保も必要である。リフトや車いす、カーテン、床頭台、ポータブルトイレ等見守りエリア周辺の物品の存在にも注意が必要であった。

g)機器の利用効果について

機器導入後、訪室回数・介護負担感が減少したとの回答が多かったが、リハビリセンターでは利用経験が無かったため、初期は操作・設定ミスによる誤報・失報が多かった。その後、リハビリセンターでは行動の把握が必要な利用者のモニター的利用が進み、訪室回数の大幅な減少や業務改善度の向上につながったと考えられる。ワークショップ等では情報共有、訪室回数低減による利用者・職員の負担軽減、リスクアセスメント等に有効とされた。

h)機器の使い勝手について

既存のセンサは構造が単純なため、特徴や操作方法の理解度が高かった。シルエット見守りセンサに関しては、なごやかハウス野跡では前年度も導入経験があり、複数名マニュアルを熟読した職員がいるため、機器理解が早期に進んだが、慣れとともに機器に対する不満が出た可能性もある。リハビリセンターでは使用経験がなく、操作に習熟した職員が少なかったことで、操作の理解が進まなかったこと、ネットワークの不具合で動作が不安定だったことが操作満足度の低下につながったと思われる。

i)介護現場での利用の継続性について

ワークショップ等での職員のコメントに「画像が確認できることが大きい」「今、これがなくなると不安になる」とあり、利便性や安心感の向上が継続利用の希望につながっていると考えられる。タブレット操作等が苦手で、機器利用に消極的な職員も一定数存在しており、操作性を向上する工夫も必要である。

図2 なごやかハウス野跡(左)とリハビリセンター(右)の介護者アンケート結果
図2 なごやかハウス野跡(左)とリハビリセンター(右)の介護者アンケート結果

今後の課題と展望

メーカー・販売事業所・導入施設一体で活用例を共有出来るプラットフォーム作り

○管理・ルール面について

シルエット画像を映す機器の特徴から、施設ポリシー、プライバシーの侵害など、倫理上課題になる可能性が懸念された。機器の導入には、法的・公的機関による承認、本人、家族から利用について同意を得ることが課題である。また、機器の導入時には、運用方法、記録方法が一本化しておらず、記載ミスや情報の欠落が多かった。今後、帳票類の整理と的確な講習を実施できる人材の育成が課題である。

○環境整備面について

既設ネットワークに接続した施設で、ネットワーク環境が不安定な状況が続いた。ネットワーク工事業者、機器メーカーとの間で出来るだけ多くのネットワーク機器に関する接続事例を蓄積し対応していくことが課題である。

○人員面について

利用者の機器使用経験や理解度には差があり、習熟度にあった個別フォローアップが欠かせない。個々の課題を把握し対応していく方法を確立すること、機器のトラブル対応やフォローアップのための人員確保が課題である。

○利用者面について

機器利用に関する利用者への説明・同意取得に関するマニュアルの作成、利用者に機器やシルエット画像を見られた際の対応策の整理が今後の課題である。

○その他

業務の効率化の視点から、センサとナースコールもしくはケア記録システムとのシステム統合が今後の課題である。また履歴データから行動パターンを把握できる事が示唆されたが、本格的に活用するためにはデータの解釈や整理手法が未確立であることが課題である。

人と機器の役割整理の視点から、カメラ機能を有した見守り支援機器は、遠隔より利用者の状況確認ができるため、訪室による目視の機会が減る可能性がある。人の目でなければ確認できない事象とそうでない事象の整理を行う必要がある。

事業で得た活用・普及のためのノウハウを継続的に拡げる視点から、メーカーや販売事業所、導入施設が一体となって活用例を共有することが出来るプラットフォーム作りが課題である。

 

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実施体制について

受託機関

  • 社会福祉法人名古屋市総合リハビリテーション事業団
    なごや福祉用具プラザ
  • 担当者:髙木 洋一
  • 〒466-0015
  • 愛知県名古屋市昭和区御器所通3丁目12-1 御器所ステーションビル3F
  • TEL:052-851-0051
  • E-Mail:n-plaza@nagoya-rehab.or.jp

介護ロボットメーカー

  • キング通信工業株式会社
  • 担当者:堤 修平
  • 〒461-0005
  • 愛知県名古屋市東区東桜2丁目9番34号 成田ビル高岳5F
  • TEL:052-934-0381
  • E-Mail:s-tsutsumi@king-tsushin.co.jp
  • 担当者:吉村 真人
  • 〒158-0092
  • 東京都世田谷区野毛2丁目6番6号
  • TEL:03-3705-8111
  • E-Mail:yoshimura@king-tsushin.co.jp

機器導入施設

  • 社会福祉法人なごや福祉施設協会 特別養護老人ホーム なごやかハウス野跡
  • 事業所の種類:
    特別養護老人ホーム
  • 担当者:施設長 川原 めぐみ
  • 〒455-0845
  • 名古屋市港区野跡5丁目2番3号
  • TEL:052-384-7483
  • E-Mail:nozeki-ct@nagoyaka.or.jp
  • 社会福祉法人名古屋市総合リハビリテーション事業団 名古屋市総合リハビリテーションセンター附属病院
  • 事業所の種類:病院
  • 担当者:佐藤 茂
  • 〒467-8622
  • 愛知県名古屋市瑞穂区弥富町密柑山1-2
  • TEL:052-835-3811
  • E-Mail:kangobu@nagoya-rehab.or.jp
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