27年度 モデル8 見守り支援
学校法人 東京家政学院
導入機器の概要
- 機器名:AIBO ERS-310(ペット・ロボット)
- 機器メーカー:株式会社 ア・ファン
かわいいイメージの犬型ロボット
ERS-310はかわいいイメージの犬型ロボットであり、このロボットがリーダーとなり、ラジオ体操などを高齢者が行い、普段は動きの少ない高齢者に活発な動きを促すことを期待する。
- 機器名:AIBO ERS-7(ペット・ロボット)
- 機器メーカー:株式会社 ア・ファン
タブレット端末から無線LAN介し、遠隔操作が可能
ERS-7は生き物のごとく動き、様々な動作をさせることができる。
高齢者がカード、ピンクボール、プラスティック製骨のなどの道具をロボットに見せることで、ロボットがいろいろな動作をする。また、タブレット端末から無線LANを介して、遠隔操作する機能がある。
本事業では遠隔操作機能を活用し、介在者が自由にペット・ロボットを操作し、レクレーションを実施した。
- 機器名:ユメル・ネルル(トイ・ロボット)
- 機器メーカー:株式会社タカラトミーアーツ
会話、歌を特徴とするトイ・ロボット
ユメル・ネルルは上記の2つのロボットと異なり、動きは少なく、会話、歌を特徴とするトイ・ロボットである。トイ・ロボットと触れ合う状況を創成し、高齢者に満足する、楽しいレクレーションを提供することを期待する。
機器導入経過の概要
機器導入前の課題
インフルエンザ流行時期に入り、対象を特養入居者からデイサービス利用者に変更
本事業の協力介護施設は社会福祉法人美鈴会 特別養護老人ホームパストーン浅間台である。当初、特養の入居者を体験者とする予定であったが、インフルエンザなどの感染症の流行時期に入ったことから、デイサービス利用者を体験者とした。パストーン浅間台では通常デイと認知症デイの2種類のデイサービスを実施しており、約150名の利用者がおり、認知症デイ利用者は11名である。これらの利用者の介護、自立度、認知症度、ADL、趣向、問題行動に関する事前調査の実施に基づき、体験者を選定し、最終的には74名の高齢者にレクレーションを体験していただいた。体験者の概要を以下に示す。
性別 | 男 | 女 |
---|---|---|
人数 | 13 | 61 |
要介護状態 | 要支援1 | 要介護1 | 要介護2 | 要介護3 | 要介護4 | 要介護5 |
---|---|---|---|---|---|---|
人数 | 3 | 32 | 19 | 8 | 5 | 4 |
自立度認知症度 | Ⅰ | Ⅱ | Ⅱa | Ⅱb | Ⅲ | Ⅲa | Ⅳ | 未定 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
人数 | 3 | 28 | 2 | 5 | 10 | 4 | 7 | 15 |
機器導入後の経過
ロボットの特徴を生かした、要素が異なる4種類のレクレーションを開発
本事業ではペット・ロボットとトイ・ロボットを用い、高齢者にコミュニケーションの場を創成するレクレーションを開発することが目的である。そこで、ロボットの特徴を生かし、レクレーションの要素が異なる4種類のレクレーションを開発した。4種類のレクレーションの要素を表1に示す。
レクレーション | 種類 | トイ・ロボットとの 触れ合い |
ペット・ロボットと 触れ合い |
ペット・ロボットと 体操 |
ペット・ロボットと 玉入れゲーム |
---|---|---|---|---|---|
要素 | |||||
実施場所 | フロア | 個室 | フロア | フロア | |
ロボットへの対応 | 個人 | 個人 | 個人 ロボットとは1対1 |
集団 (周囲と一緒) |
|
ロボットの役割 | ペット | ペット | 見本 | プレーヤー | |
ロボットの動き | リアクション | リアクション | 固定 | リアクション | |
ロボットとの スキンシップ |
あり | なし | なし | なし | |
サウンド | 音楽・音声 | なし | 音楽 | なし | |
表情 | あり | なし | なし | なし |
以下に、4つレクレーションの詳細を述べる。
(ⅰ)トイ・ロボットと触れ合い
体験者がトイ・ロボット ユメル・ネルルの手のひらを握り、センサ(スイッチ)を押す、お腹を触る、頭を撫でる、抱っこをすると、ユメル・ネルルは話をしたり、歌を歌ったりする。介在者は体験者にこれらの動作をすることを促したり、手本を示したりする。
また、ユメル・ネルルには着せ替え用の洋服がある。希望する体験者は洋服を脱がし、別な洋服に着替えを行う。介在者は体験者のアシストを行う。
(ⅱ)ペット・ロボットと触れ合い
体験者が個人的に1人でペット・ロボットと触れ合うレクレーションとして、簡単なカードゲームを行う。カードにはAIBOが行う芸を示す写真が描かれている。そして、以下に示すようにレベルを0から3まで4段階に変化させながら、AIBOと触れ合っていただく。
レベル0:介在者がAIBOにカードを見せて芸をさせ、AIBOがカードを見て、芸をすることを体験者に理解してもらう。
レベル1:体験者がカードをAIBOに見せて芸をさせる。
レベル2:介在者がランダムでAIBOに芸をさせ、体験者がなんの芸かをカードをさして当てる。
レベル3:介在者がAIBOに連続で3~5枚のカードを見せ、「もう一回」と掛け声をかけるとAIBOが見せた順番に芸をすることを体験者に説明し、理解してもらう。体験者にカードを複数枚選択してもらい、それを順番にAIBOに見せる。そして、もう一回の掛け声をかけてもらい、AIBOが見せた順番に芸をしていることを高齢者が理解しているか確認する。
ペット・ロボットとしてはAIBOERS-7を遠隔操作で動作させる。
(ⅲ)ペット・ロボットと体操
ペット・ロボットがインストラクターになり、複数の体験者が体操を行うレクレーションである。ペット・ロボットとしては複数(4台)のAIBO ERS-310を用い、介在者がAIBOのしっぽセンサを上下することで、AIBOはラジオ体操と365歩のマーチを音楽に合わせて、体を動かし始める。体験者はその動きに合わせて、身体を動かすこのレクレーションは1回目と3回目は「ラジオ体操」、2回目は「365歩のマーチ」であり、1回目と2回目の間と2回目と3回目の間に、次に述べる「ペット・ロボットへ玉入れゲーム」を行う。
(ⅳ)ペット・ロボットに玉入れゲーム
このレクレーションは複数の体験者にピンポンボールが入るケースを配り、籠を背中に載せ動き回るペット・ロボットに向かって、体験者はピンポンボールを投げ入れるゲームである。ピンポンボールには2種類の色がついており、色に分かれて競争するゲームになっている。ペット・ロボットは2台のAIBO ERS-7を遠隔操作して動作させる。体験者全員のケースの中のピンポンボールがなくなると、籠の中のピンポンボールの数を数え、ゲームを終える。
機器活用のためのフォローアップ
介護職に対し、機能およびレクレーション内容に関する説明会
介護職に対し、ロボットの機能およびレクレーションの内容に関する説明会を実施した。
- トイ・ロボット ユメル・ネルルに関しては、機能説明のほか、操作を体験してもらい、介護職が操作できるようにした。
- ペット・ロボットの操作の説明をしたが、ロボットの操作の自動化などが未実装であるなど、操作性の課題があるので、本実験では事業者たちが操作をすることとした。
- 介護職が体験者の選定を行うので、レクレーションの内容を説明し、内容の理解を深めた。
機器と施設・介護方法の適合
イントロ、アフターの時間を設けて機器に親しませる
① 実施場所
デイサービス利用者は50名から60名であり、全員がロボットとのレクレーションに参加することはできない。そこで、デイサービスセンターに近い食堂、ロビー、応接室に体験者を案内し、レクレーションを実施した。図1に実施場所のレイアウトを示す。
図1 レクレーション実施場所レイアウト
② レクレーションのつなぎ
体験者はデイサービスセンターから実施場所へ移動してくるので、ペット・ロボットと体操をはじめるまでしばらくの時間を要する。体験者がペット・ロボットに親しみを持てるよう、開始までの間、AIBOの動きを見てもらう、イントロの時間を設定した。また、体操と玉入れが終了したのち、体験者はデイサービスセンターへ戻るが、全員が同時に移動することはできないので、ペット・ロボットを見たり、触ったりするアフターの時間を設けた。
実証評価の結果
コミュニケーション能力を表す評価指標の値が高い
① 実施期間
実施期間は3週間、原則として毎日実施した。
午前:トイ・ロボットと触れ合い、ペット・ロボットと触れ合い
午後:ペット・ロボットと触れ合い、ペット・ロボットと体操、ペット・ロボットに玉入れゲーム
② データ収集
- レクレーション実施状況の複数台のカメラによるビデオ撮影
- 観察法およびビデオ判定による体験者の参加評価
(1)興味度:体験者のレクへの興味 0~4の5段階判定
0:なし
1:見る、見ようとする
2:話しかける
3:触ったり、応答する
4:盛り上がる
(2)理解度:体験者のレクの理解 0~4の5段階判定
0:なし
1:ほぼ理解していない
2:一部理解している
3:一部理解していない
4:完璧
(3)実行度:体験者のレクにおける実行 0~4の5段階判定
0:なし
1:介護職が強制的に実行させる
2:介護職の促しで実行する
3:自分から実行する
4:自分から進んで実行する
本事業では、体験者のコミュニケーション達成度をレクレーションの参加度として、上記3つの評価にもとづき総合評価(5段階)する
③ レクレーション参加評価
レクレーション参加評価としては708件の結果を得た。主な収集データの統計値を示す。
■ トイ・ロボットと触れ合い
興味度 | 理解度 | 実行度 | 参加度 | |
---|---|---|---|---|
平均 | 2.81 | 2.51 | 2.68 | 2.67 |
分散 | 0.98 | 1.09 | 1.19 | 1.09 |
標準偏差 | 0.99 | 1.04 | 1.09 | 1.04 |
最大 | 4 | 4 | 4 | 4 |
最小 | 0 | 0 | 0 | 0 |
■ 体操
興味度 | 理解度 | 実行度 | 参加度 | |
---|---|---|---|---|
平均 | 2.44 | 2.62 | 2.40 | 2.46 |
分散 | 1.36 | 1.74 | 2.25 | 1.65 |
標準偏差 | 1.17 | 1.32 | 1.50 | 1.29 |
最大 | 4 | 4 | 4 | 4 |
最小 | 0 | 0 | 0 | 0 |
■ 玉入れ
興味度 | 理解度 | 実行度 | 参加度 | |
---|---|---|---|---|
平均 | 3.00 | 3.17 | 3.08 | 2.97 |
分散 | 0.81 | 3.91 | 0.84 | 0.74 |
標準偏差 | 0.90 | 1.98 | 0.91 | 0.86 |
最大 | 4 | 25 | 4 | 4 |
最小 | 0 | 0 | 0 | 0 |
■ ペット・ロボットと触れ合い
興味度 | 理解度 | 実行度 | 参加度 | |
---|---|---|---|---|
平均 | 3.05 | 2.94 | 2.80 | 2.95 |
分散 | 0.83 | 1.13 | 1.41 | 0.99 |
標準偏差 | 0.91 | 1.06 | 1.19 | 0.99 |
最大 | 4 | 4 | 4 | 4 |
最小 | 0 | 0 | 0 | 0 |
いずれのレクレーションに関しても、コミュニケーション能力を表す評価指標の値は高く、コミュニケーションが創成されていると考えられる。
今後の課題と展望
コミュニケーションの創成に有望なロボットを用いるレクレーション
認知症高齢者の介護における困難さは、高齢者とのコミュニケーションが円滑にできていないことが一つの大きな要因であると考え、「見守り介護」の観点を、認知症高齢者が参加できる楽しく、安心なコミュニケーションの場の創成に重きを置き、ロボットを活用した見守り介護技術を開発することを本事業の目的とした。トイ・ロボット(タカラトミーアーツ製 ユメル・ネルル)、ペット・ロボット(AIBO ERS-310/ERS-7)を用いて、高齢者と介護スタッフとのコミュニケーション、あるいは高齢者同志のコミュニケーション創成に寄与し、楽しく、安心なコミュニケーションの場の創成をもたらすと考える4つのレクレーションを開発し、認知症高齢者のコミュニケーション機会の増加、コミュニケーション能力向上を実験的に検証した。デイサービスの利用者74名の高齢者に体験者としてレクレーションに参加していただいた。すべてのレクレーションにおいて、高齢者の参加は「促されると参加する」と「自分から参加する」の間にあることが分かった。評価期間が3週間と短いが、この結果はロボットを用いるレクレーションがコミュニケーションの創成において有望であることを示していると考えられる。また、709件のレクレーション参加データを分析した結果、認知症度などの特性に応じ、有効なレクレーションがあることと推察できた。
さらに、ロボットを用いるレクレーションを実用化するための課題も明らかになり、今後、これらの課題の克服を進め、実用的なものとしていくことが肝要と考える。